wine and music

ワインと音楽


淡墨桜と淡いピノノワール。

BEAU PAYSAGEの岡本英史さんにとってピノノワールというぶどうは特別な品種だといいます。そのことが「BEAU PAYSAGE Pino Noir 2015」のCDのブックレットのコラムに書かれています。山梨の津金の畑を訪れたとき、ピノノワールはまばゆい夏の陽射しを浴びながらもドロップスのようにまばらに色づき始めていました。

以前、岡本さんからBEAU PAYSAGEのピノノワールの2011年について話をしてもらったことがあります。その年は台風の影響もあり、ぶどうの発酵によるアルコール度数が上がりにくい難しい年だったといいます。しかし、岡本さんは「この年のワインの味わいは、春の淡墨桜(うすずみざくら)のような感じではないでしょうか」と、まるで日本人の表現方法のひとつである「見立て」のように言いました。そのワインを口にすると、とても優しい味わいで、うす曇りの春の空に淡い桜が広がる穏やかな風景が浮かんできます。岡本さんが言う、その年の自然をワインで表現したいとはこういうことだったのかと、少しわかったような気がしました。

BEAU PAYSAGEのピノノワールをイメージした音楽を選ぶときに浮かんできたのは、「可憐」、「チャーミング」という言葉でした。ロシアと西欧のはざまに位置するウクライナのアーティスト、キエフ・アコースティック・トリオのパヴロ・シェペタの弾く「Night Song」のピアノの音色がかもしだす奥ゆかしさや可憐さは、静かに春を待つ慎ましい心持ちを感じさせ、BEAU PAYSAGEのピノノワールの性格を表しているように思ったのです。ワイナリーの山の家で岡本さんがこの曲を聴いて、「チャーミングですね」とうれしそうに話してくれたことを思い出します。そして、この曲が今回の選曲のオープニングを飾ることになりました。(H.Y)